理事長エッセイ

先生の熱意と指導力が安松幼稚園の誇り

平成16年3月
理事長 安井俊明
当園のカリキュラム (教材の捉え方について)

当園で教材を用意する際の根本は、その教材が子供の発達段階に基づき、そして子供の実態に即しているかどうかです。
大人が頭で考える“難しい,易しい”は、そのまま子どもには通じません。大人にとって難しいことが子どもにとっては易しい、またこの逆もあるのです。
 同様にある教材を扱う時期も、子供にとって適切なふさわしい時期があります。
「年齢が高くなるにつれて学ぶことが容易になる」 というわけではないのです。
例えば幼児期や小学校の低学年で扱えば楽しみながら簡単にスーッと入っていくことも、高学年以降になると苦しみとなることが多々あります。
例えば、大人であるお母さんは ひらがなより漢字を難しいと感じる事が多いです。が、一文字一文字に意味があり画数が多い漢字の方が特徴をとらえやすいので、子供にとっては易しく、逆にひらがなの方が難しいのです。


当園の教材の捉え方について、漢字を例にして 少し記してみます。

(1)

当園では、赤ちゃんが言葉を覚えていく過程とまったく同じスタイルで、
漢字(文字)を指導すべきと考えています。
漢字は目で見る言葉ですから、耳で聞く言葉のように幼児に習得させるべきです。この時期をはずすと、子供自身、学習が急に困難になってしまいます。

補;

高校の先生であった石井勲さんは、ある時期、小学校の国語教育に問題があると感じ、小学校の先生に転じました。「15年間教えてみると、一年生が一番良く漢字を覚え、学年が進むほど覚える能力が低下することが分かった。文部省が6年かかって教えると定めた漢字を、一年生は一年間で8割方覚えてしまった。ひょっとすると幼稚園児の方がもっと楽に覚えていく能力があるのではという想いに至った」ということです。


(2)

生まれたての赤ちゃんに「この子はまだ言葉の意味を理解できないので、話しかけても意味がないし詰め込みになる」と考えて、話しかけるのを控えないでしょう。赤ちゃんの周りには常に言葉が飛び交い、それを耳で聞いて先ずは音声を獲得し、次には自分の行動範囲が広がるのに伴って、意味をも獲得していくのです。



(3)

漢字も、「言葉は耳を通して」と同じように、「目を通して自然と覚えていく」方法をとります。これが幼児にとって最も楽な方法なのです。



(4)

あっ、それからもう一つ。
「漢字はひらがなより難しい」というのは、大人にとってのことです。最初に述べたように、子供の発達段階に基づき子供の実態に則して考えるとき、子供に対する指導では、ひらがなの導入のほうが難易度が高いのです。と言うのは、一文字一文字に意味があり画数の多い漢字の方が特徴をとらえやすく、子供にとっては容易なのです。



(5)

当園のカリキュラムは、子供の発達段階や子供の実態を研究した上に組み立てられています。繰り返しますが、教材は大人の頭の中や机の上で作り上げるものではなく、子供の実態から出発しなくてはなりません。大人の難易と子供の難易は異なります。その意味で、冒頭で述べたことがとても重要なのです。



(6)

次に、時期の問題について触れます。
私たち大人や文部省の学習指導要領は、子供の実態を見ずに「大きくなってから学んだほうが簡単である」という錯覚を何となく持っています。が、幼い時に学んだほうが、楽に自然にスーッと入っていくということがいくらでもあります。
 例えば、赤ちゃんが日本語を母国語として獲得し日常生活に不自由のないレベルまでくるのには、3年あれば十分です。しかし私たち大人がロシア語やイタリア語を日常生活に不自由のないレベルまで獲得するのには、3年ではとても困難であるし多大な苦痛と努力が必要とされるでしょう。
言語(文字を含む)の分野だけでなく、音楽の分野や基本的生活習慣を身に付けることを含め、大きくなってからでは遅すぎる 苦労する そして能力が低下する という例は無数にあります。
 漢字を小学校まで導入・指導してはいけないという考え方は、幼児の発達段階や実態を無視し、大きくなってから苦しんで覚えなさいということにつながります。



(7)

現在の日本の言語教育で根本的に間違っているのは、国語科における「読み書き同時指導」の考えです。赤ちゃんが言葉を獲得していく過程 並びに 幼児・児童の発達段階や実態を研究すれば、「漢字を読むことが出来て,意味が理解できる」ことと「書く」ことを同時に指導するには無理があります。(書きは、筆順の問題・鉛筆を持つ指の力の問題等があるので、文字にもよりますが、幼児には、デリケートな分野になります。)
石井さんの言葉を借りると「せめて意味が理解できれば、書くのは高学年になってからだっていいんです。ましてワープロ時代の今後は、読み取る力がますます必要になるはずです。」



(8)

最後に
 漢字教育というと、漢字を教え込むことと勘違いするお母さんがいます。赤ちゃんが言葉を獲得していく過程は言語教育そのものですが、誰も赤ちゃんに言葉を教え込もうとはしないでしょう。「耳から入る言葉」か それとも「眼から入る言葉」か の違いだけであり、楽しく自然に身に付けていくということです。
 長々とお付き合い頂きましたが、「幼児期に漢字の読みと意味を得た子供たちは、ごく自然に本を読むのが好きになり情操豊かになる」という言葉でもって最後と致します。ありがとうございました。

補;

「漢字は難しい」と思っているお母さん方が多いので、漢字を例にして 当園のカリキュラム すなわち 教材の捉え方 について記しました。
基本的な生活習慣を養うことや園児との接し方等をも含め、漢字以外の他のすべての分野においても「教育は子供の実態から出発しなくてはならない」という基本精神(教育哲学)は同じであることを申し添えます。