理事長エッセイ
安松幼稚園の歌唱指導
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安松幼稚園の歌唱指導
年少の教室から 今年も
梅のこえだで うぐいすは
春が来たよと うたいます
ホウホウ ホケキョ
ホウ ホケキョ
の歌声が聞こえてきました。
この歌声が聞こえてくると、もう立春、桜咲く春が、もうそこまで
来ているという実感が湧いてきます。
さてこの3月8日(金)に、第12回目となる安松幼稚園主催の
~ 伝えよう 誇り高き日本の文化 ~
が、泉の森ホールで開かれます。
以下は、私が大阪教育大学附属天王寺で同勤しました音楽科の諸石先生の寄稿文です。諸石先生には時に来園頂き、歌唱指導などにおける音楽としての方向性を、色々とご教示頂いています。
諸石先生から、安松幼稚園の実践している教育、そしてその上に立つ安松幼稚園の歌唱指導の内容・具体的な方法が素晴らしいので、それらを世に問い、皆さんに提示されてはという話があり、専門的な見地から以下の文をお書き下さいました。尚、下の矩形の中の注は、安井の手に依ります。
安松幼稚園 創立75周年記念コンサート(於 泉の森ホール)に向けて
諸石孝文
泉の森コンサートの開催を機縁とし、安松幼稚園の歌唱指導について、一つ目は考え方などの概論を、二つ目はコンサートの個々の曲について具体的に記してみました。
●先ずは、大きな考え方から
今年の泉の森ホールコンサートの曲目には、名曲、大曲、難曲がズラリと並んでいます。しかし、子供たちにとって、そんな大人の見方は、どうでもよいくらいに、楽しそうに曲を歌っています。時には、信じられないくらい軽々と。
子供に譜面で教えるわけでもないし、先生が歌ってそれを真似させるだけですから、大人が難しいと思いさえしなければ、どんな曲でも歌えるはずです。 |
注1 真似ることの意味
教育の原点は、よい手本の真似をさせることです。教室や運動場での先生の長々とした説明は意味が無く、子供のやる気を失してしまいます。よい手本を見せて、さっと実技に入る。これが理想です。 体育・書道・歌唱・詩の朗唱・楽器演奏以外にも、歌舞伎・狂言・落語などの古典芸能でも、全ては先生の真似から始まり、一つの基本・型を身につけていきます。 学ぶとは真似るであり、守・破・離の世界なのです。
注2 情熱ある先生の手本が全て
注1に記しましたように、教育とはよい手本の真似から始まります。 先生が本気になって子供に向き合えば、先生の全力の姿を前に、子供が全力出さぬわけがありません。 教育の質とは、先生の質です。その先生がよい手本を示すことが出来るかどうかにかかっています。 |
これはまるで、モーツァルトのピアノ曲の演奏は、プロの演奏家が弾くよりも子供が弾く方が時には自然に聞こえる、とよく言われることと似ているような気がするのです。つまり、モーツァルトのように、自然な流れを持つ名曲の場合、変に解釈された演奏よりも、子供の演奏の方が素直で自然に聞こえるということです。園児の歌でも同じことが言えると思うのです。
子供たちは、大人では考えられないぐらいの速さで歌詞を覚えてしまいますし、表現の会得も速い。問題はそれを全員でピッタリ合わすことができるかということです。もちろん、歌いながら。これが、合唱の出来映えを左右するポイントとなります。
その根底には普段からのしつけ教育があって、それがあって初めてできることだということは言うまでもありません。 |
注3 しつけ教育が全ての始まり
しつけ教育によって集中力・持続力が養われ、その上に美的情緒が花咲くのです。 |
●コンサートの曲 並びに より具体的な指導について
メインは、年長児全員、94人による合唱です。
最初は子供たちの大好きな「ぼよよん行進曲」から始まります。「ぼよよ~ん」という言葉の持つ感覚を音楽にしたような軽快なリズムに乗って今にも歩き出しそうです。
「怪獣のバラード」は中学1年生ぐらいでよく歌われる曲で、安松幼稚園でも昔は大曲として扱っていましたが、今はもう普通に歌える曲目の中に入っています。
「どんなときも」は、みんなによく知られている曲ですが、その歌詞の意味をもう一度見直してみては如何でしょうか。子供たちは明るい曲調のリズムに乗って実に楽しそうに歌っていますが、その意味を深く知った大人たちは泣けてくるかもしれません。
「手紙」は2008年のNHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲で、「アイノカタチ」もミーシャが歌う大曲(難曲)ですが、どちらも気持ちをどれだけ聞いている人に伝えられるかということが大切な曲です。その曲の『心を歌う』ことができるよう 取り組んでいます。
女声合唱のジブリメドレーでは、天使のような歌声で妖精たちが歌っているかのようなジブリの世界に引き込まれていくことでしょう。こういう曲は、大人の美しい声よりも子供たちの清らかな声の方がよく似合うと思うのです。美しくて切ないメロディーに子供たちが挑戦します。
幼稚園では二部合唱というのも、ふつうはあまり行われていないのですが、掛け合いのような感じで何箇所か出てきますので、楽しみにしてお聴きください。
【具体的な指導】
裏声の使い方も工夫しています。多くの他の幼稚園では、裏声の指導は行っていませんが、最高音がG(ソ)にまで達して、裏声を駆使して歌っています。他の曲でも、高音のF(ファ)ぐらいは、普通に出しています。男子も裏声を使って歌う部分が多いのですが張りのある裏声を出して、女子の美しい声とミックスした時の声はとても響きがよくなります。
他の幼稚園では考えられないことでしょうが、安松幼稚園では、裏声の子と地声の子とをグループに分け、それをミックスさせて高音を美しく聴かせる工夫をしています。曲によって、グループの編成も変わります。
もちろん、その為の先生方のご苦労は並大抵のものではなかったと思いますが、そういう苦労を重ねながら、美しいものを創り上げてゆくという努力を、園児と共に日々行っています。 |
注4 チームでよい手本を示す
安松幼稚園はチームで指導しています。 歌唱においては、表情・表現の指導(手本)が最も重要ですが、それ以外に、歌声・ピアノも大切な要素です。 |
●最後に
忘れないでおいて頂きたいことは、この演奏は、合唱団やクラブや課外活動での選ばれたメンバーによるグループ等の演奏ではなく、普通のクラスの子供全員による演奏だということです。
歌の得意な子もそうでない子も含めて、音楽が専門ではない先生方が、安松幼稚園独自の方法で合唱に取り組んできました。
しかも、放課後の時間に特別に練習したわけではなく、平素の授業の中の限られた練習時間で、しかも運動や制作などと並行しながら仕上げてきたものです。
暖かくはなってきましたが、最終的には風邪やインフルエンザとの闘いになります。子供たちの体と喉を守ることも含めて、保護者の方々とも、共に取り組んでいます。
いろいろな面で、新しい挑戦をしている安松幼稚園ですが、このコンサートに向けての取り組みの一端を紹介しました。
是非、児童合唱団の指揮者の方や、小学校の現場の先生方等に見て聴いて頂きたいと思っています。
(文責 諸石孝文)