理事長エッセイ

先生の熱意と指導力が安松幼稚園の誇り

平成23年1月1日
理事長 安井俊明
子供中心主義・児童中心主義の終焉を願って

● 次に、新聞の投書から2例を挙げてみます。
皆さんは、どちらを支持されるでしょうか?

この親にしてこの子と感動
男性 74歳

 雨上がりの午後の電車内の出来事だった。
母親に伴われ頭にヘルメット、両膝両肘にサポーターをつけ松葉づえを使う、6,7歳の少年が乗り込んできた。身障者のようだった。中央部に着席した母親の手前で、つえの先がぬれた床で滑ったのか、少年が転び、大声で泣き出した。
 乗客の1人が抱き起こそうとしたとき、母親から「お願いです。構わないで下さい」さらに「泣いたって誰も起こさないわよ。それでは立てない、足はどうするの、つえを離して…」など、矢継ぎ早にしかり励ます声が飛んだ。乗客はかたずをのみ、視線が親子に向けられた。
 少年が泣きながら苦闘の末やっとの思いで、つえを頼りに立ち上がった瞬間、母親はぬれ汚れた着衣もいとわず、しっかりと胸に抱き締めた。期せずして車内に拍手が湧き、会釈する母親はもちろんのこと、多くの人がこの情景に目を潤ませていた。
 ただ優しさと甘やかしだけで包み込む親たちが多い昨今、わが子のために厳しく心を鬼にして立ち向かう母親、そしてそれに応える子供。まさに、この親にしてこの子あり、最近にない感動を覚えた。


子供のしつけ 親が意識して
男性 28歳

 先日、ある病院の耳鼻科でのこと。4歳ぐらいの女の子が診察を終え、吸入器のある部屋で吸入しようとしていました。
 看護婦さんがスタートボタンを押し、機械が動き出しましたが、女の子はなぜか不満げな顔でした。
 隣にいた母親が女の子に尋ねると、「私が押したかったのに」と言うのです。看護婦さんは笑いながら「ごめんね」と言って立ち去りましたが、まだ不満な女の子に母親が「今度ね、次の時は押させてあげるから」と、何度も機嫌をとっていました。
見る人によっては、ほほえましいとも映る光景でしょう。でも私には、そうは映りませんでした。私には、母親のすべきことは機嫌をとることではなく、「『ありがとう』と言いなさい」と感謝することを教え、子供をしつける絶好の機会であると映りました。
 あの女の子がそのまま大きくなれば、利己的で自分勝手で他人に感謝することも知らないわがままな人間になるのではないかと心配です。
 私ももうすぐ親になります。わが子だけでなく、近隣の子供にも目を配り、礼節を知る子供が1人でも多く育つよう、声をかけていきたいと思います。


母親の2例を掲げましたが、どちらが児童中心主義かは直ぐにお解りでしょう。
下の投書に見られる子育てでは、子供に耐性を育めないことは明白です。

● 学校での児童中心主義について  H.P.の理事長エッセイ ■H22.1.1混迷の日本・教育について考える(NO.2) より一部引用します。
[学校の変質]   ← いわゆる児童中心主義が背景にあります
 ……一部省略……先生と生徒も友達のような関係が理想だとばかり、生徒の目線でということで、多くの学校で教壇が取り払われました。
 強制は良くない、嫌なことは我慢してまでやらせなくてよい。それぞれに好きなことをさせることが個性の尊重であるとばかり、教育活動は、指導ではなく支援であるべきだという主張が広まりました。
 この考え方に汚染された多くの教師が、生まれました。
子供や保護者に「良い所は良い、間違っていることは間違っている」と伝えることは、教師の哲学・信念とエネルギーが必要ですが、多くの教師は校長も含めて、安楽な方に流れました。
その結果、公立学校の現状は、約半数が学級崩壊(学校崩壊)し、そこに至っていないまでも、学校や教室で“ものごとを学ぶ”際の凛とした空気は、ほとんどの小・中学校からは消えてしまいました。
先生の多くは、教科指導ではなく生活指導に忙殺されています。

● 競争させたり順位をつけることは悪であるという考えも、児童中心主義から出ています。例えば100m競争でゴール前で立ち止まり、全員が手をつないでゴールする。
また学期の終わりなどに、通知表の評価で、全員オール5をつけたりするのも、児童中心主義が背景にあります。
 また最近は何か事件が起きると、学校にカウンセラーを派遣し子供達の心の傷を癒し悩みを聞くということが数多く報道されていますが、これも児童中心主義から出ている面が多く感じられます。Ⅱ章.子供の耐性を培うのは親の第一の責務で述べたように、家庭から一歩出れば他者との様々な相剋があり得るのであって、最終的には自分の力で乗り越えていかねばならないし、それら子供の耐性を養うのは家庭や学校の責任であるという視点が全くないままのカウンセラー派遣には疑問を感じます。(注:もっとも事件の種類によって、カウンセリングの必要な場合も明白にあります。カウンセリングを全面否定しているわけではありませんので、誤解無く文意をお汲み取り下さい)

● 子供中心主義・児童中心主義については幾多の具体例がありますが、これくらいにしておきましょう。
 「心に傷を受けてはいけないので、子供や児童の希望を第一と受け止め、子供の自由や個性を尊重しましょう」という耳当たりのいいスローガンの実態は、「子供の将来に責任を負わず、わがままを助長する」教育でしかない。
 子供中心主義・児童中心主義の学問的な背景や歴史的な流れはⅦ章までお待ち頂くとして、子供の言いなりの教育子供の機嫌をとりながらの教育とは、決別したいものです。