理事長エッセイ
先生の熱意と指導力が安松幼稚園の誇り
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家庭の大仕事は 子供の躾である
――幼児期における躾こそ教育の根本
今後の人生の土台ができあがり 一生の宝となる ――
今年度は安松幼稚園創立76周年にあたります。
世界中に色々な戦災や災害が起きる中、今年で47回目となる園内お楽しみ音楽会を、年長児に初の年中児も参加し、第13回泉の森ホールコンサートとして開催できたことを、心から感謝申し上げます。(年少児は従来通り園内で実施しています)
卒園・進級おめでとうございます。卒園生・進級生が、これから先、色々な自然災害や疾患を乗り越え、周りの人に対する優しさや配慮を失わず、力強くたくましく生きぬいてくれることを信じています。
年度替わりのこの時期に、しつけ(躾),素直さ について記してみました。
【Ⅰ】素直さと躾について、実例や本からの引用です
●素直さについて ある日のホームクラスでの出来事です
先生が時計を指差して「短い針が6 長い針が12を指したら、片付けを始めましょうね」と児たちに話しました。……その後「6時になったから遊ぶのを止めて片づけを始めましょう」と呼びかけました。A君「わかってる」との返事。それに対してB君が「そんな時は、ハイと言うたらいいんやで」と優しく教えてあげたそうです。先生室でその話が紹介され、全員微笑ましく聞き入り、穏やかな そして もっともやな との空気が流れ、先生も色々な学びを得ました。
●躾について 羊の歌…わが回想(加藤周一著)より引用
☀兄妹一方の子供がいじけることのない様に、男女の子供を平等に扱い、けんかは両方の言い分を充分に聞いた後で裁いた。罪は罪状に応じて厳しく…子供のわがままに親の方から折れて出るということ、甘い約束で子供をなだめるということは決してなく、子供は無条件に親の言いつけに従わねばならず、決して噓をついてはならなかった。…しかし親の不機嫌のために不当に罰せられたという記憶はない。「そんなことをすればお巡りさんが来ます」とか「幼稚園の先生に言いますよ」とか、両親以外の権威を引き合いに出して、脅かされた経験はない。
☀親から理由なく理不尽に叱られたことは一度もなかったが、人としての悪を冒せばその罰を見逃されることも一度も無く、そこには納得できる善悪の法則があった。
☀親類や父の同級生たちが子供を含め家族連れで金王町の家を訪れてきた。菓子をねだって泣き叫ぶ子供の母親たちは、おとなしく待っている私と妹の方を見て「なんてしつけのよいお子さんでしょう」と言った。…私自身は同じ年頃の他の子供たちが泣き叫ぶのを、珍しい動物でも見るように眺めていた。(ここまで引用)
【Ⅱ】素直であることは今後の人生においてとても大切 そしてその素直さは家庭での適切な躾から生まれることが多い
私は今まで多くの子供や若者や研究者と接してきて、人の素直さの大切さを強く感じています。人が伸びるためには素直さが必要です。しかしここでいう素直さは、盲目的に相手の言う通りすることではありません。もちろん本人の年齢や扱う分野においても素直さにも違いはあるでしょう。
まず素直さは、幼児期には必要な事かと思われます。また色々な学び 特に学び初めには素直さがとても大切です。習字、琴やピアノなどの楽器、スポーツなど、ある程度の技術を習得しその本質をある程度理解できるまでは、素直にその型を習得する必要があります。
またかなり理解が進んだ際(その道を歩んでいる人や研究者など)には、色々な疑問を抱くことはとても大切になります。しかし疑問を持つことは素直さと相反する事柄ではありません。これら専門的なレベルでも、自分の意見や考えを相手(先生)の考えと議論しあう時に、自分の意見に頑なに固執するのではなく、相手の意見も認め、時には自分の誤りに素直に気付き自分の考えに取り入れていく柔軟さ(=これを素直さと呼んでいいでしょう)が必要です。
その本人の年齢や扱う物事のレベルによって、素直さの内容も変化はしますが、人としての素直さ(潔さと言っていいかもしれません)は必要です。
子供時代の種々のやり取りの中で、素直に「ごめんなさい」と言えること、またある物事において、「自分の誤りを認めること」など、時により、素直さは潔さとか勇気とも言い換えることができると思います。幼稚園において3,4歳で、お友達とのトラブルの際に、頑として自分のしてしまったこと(例えば叩いたり蹴ったり相手に唾をかけたりなど)を認めずにごまかす児もでてきます。
これらの性格は、乳幼児期に、周りの大人 とくに親から、どのように接してこられたかが大きく作用します。いわゆるそれまでにどのような躾を受けたかです。
幼稚園において、年中・年長(4・5・6歳ごろ)になれば、好きなお友達が出てきます。すなわち4・5歳で、友達選びの中でその子なりの価値観が出てくるのです。
奥本大三郎氏著の「虫の春秋」の解説の中で池澤夏樹氏は、「僕は、人は身体だけでなく精神の面でも変態や脱皮をしないと思う。主要な部分は幼い時に作られて、それがそのまま一生使われる。
確かに人間は大人になる途中で色々なことを覚えるし、その中には色恋などという楽しいこともあるけれども、そういうことはすべて精神の外側に付着するだけであって、心の骨格という部分は変わらない。
……少し略……
だから子供時代は重要である。
言ってみれば、『われわれは最初の何年かで一生の分の智恵を集めてしまわなくてはならない』と述べられています。
幼児期においてその後の人生に引き継がれる心の骨格(人としての価値観)が形成されると知る時、私達が思う以上に、幼児期の躾は家庭での大仕事でありましょう。
将来、正義や道理を貴ぶ方向に行くか 自分の利益第一にごまかしながら生きていくことが平気になるか お金は必要ですがそれ以外にも大切なものがあると考えるか お金だけが全てであるという人生を歩むか等々、どのような価値観を身につけていくのでしょうか。幼児期、子供時代が大きな勝負時です。
【Ⅲ】躾とは何を目指すか 素直さとは
●幼児期の躾では日々の生活を通して、
☆基本的な生活習慣 ☆善悪のけじめ などを子供に養いたく思います。
これを怠りますと、
・挨拶のできない中学生
・お箸を正しくもてない高校生
・お辞儀のできない大学生
・社会性の育っていない大人
・議会でガムを噛みながら答弁する市長(奈良市での出来事)
などが生まれます。
次に幼児期における項目を数点挙げてみます。
☀返事ができる 時に応じて素直にごめんなさいが言える
☀暫くの間は椅子に座っていることができる 我慢することができる
しばらくの間待つことができる
☀対象物を見ることができる 相手の目を見て話をすることができる
☀自分のしてほしいことを言葉で言える(親が先回りしてやり過ぎていませんか)
※日常生活の中で、根気よく子供と接していきましょう。子供によってはその時の発達段階や特性から、すぐには出来ない時もあります。そんな時はいったんその特性を受けとめて、心ゆっくりと接していきましょう。
●安松幼稚園では、次のような項目も、躾の範疇であると考えています。
(a) 起床時刻や就寝時刻、排泄や食事などの健康管理に関する基本的な生活習慣
(b) その場に応じた挨拶が出来、自分の気持ちを伝える会話能力を高める
(c) 周りの人に対する優しさと共に、自然を尊ぶ気持ちを育て、感受性豊かな人間を目指す
(d) 物事に対する積極性を育て、何事にもやる気満々の心を育てる 等々
適切な躾により、子供は素直に育ちます。躾ができていると相手の話を素直にしっかり聞きますから、その内容をよく理解し物事の本質をつかみ、やる気に満ち積極的に物事に取り組んでいくようになります。
安松幼稚園の児たちの 歌唱・持久走や50M走・運動会・文化発表会・誕生会・日常の授業等々における やる気 積極性 を思い出して下さい。全てが躾の上に成り立っています。
要するに、躾とは、形式的な行儀を教えるより、その根本は、思いやりとやる気を育て、
情感を育てることです。人間性を育てることです。これは生涯につながる根本であり、
一生の宝となります。躾とは 児を人としての軌道に乗せることです!!
適切な躾は、素直でやる気に満ちた子を育てる という言葉で稿をおくこととします。
皆さんのご多幸を念じます。